「日本歌曲振興波の会会報(2,018年1月第1号)」に寄せて

今へ物語る音 

        江尻 栄

 

 去年は春に地元で、ピアノ協奏曲「産土の始め」の初演を、秋には富山県高岡市にて

合唱組歌「越中万葉」の初演を、そして引き続き本会第一回定演における歌曲、石埼勝

子作詩「赤まんまの詩」と村上周司作詩「月が」の初演をというように、関係者のご尽

力の下、無事、発表を終えました。

 さて、詩に色々な表題とその物語があるように、私の作曲も多くは郷土の歴史や身近

な出来事を主題とし、それらの顛末に合わせて曲を構成します。ですから前述の「産土

の始め」は百五十年前の北海道開拓の苦難の歴史が、「越中万葉」は大伴家持によって

万葉集に歌われた千三百年前の祖父の故郷、高岡周辺の原風景が、それらが主題となり

曲を物語り、今へ繋げようとしています。

 このように私にとっての作曲の軸足はアカデミックな論理の構築よりも、歌曲におけ

る物語を手本としていますが、詩人と歌い手と作曲者の出会いによって繰り広げられる

本会の新たな船出は、改めて、聴き手の風が帆をいっぱいに押し出してくれる、そのよ

うな航海でありたいと願っています。(作曲会員)

―平成29年の活動記録として、「日本歌曲振興波の会会報(2,018年1月第1号)」より

転載。